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札幌地方裁判所 昭和36年(ワ)254号 判決

原告 清水元治

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 上田保

同 中島一郎

被告 国鉄労働組合札幌地方本部中央支部

右代表者執行委員長 丸山洋一

右訴訟代理人弁護士 中島達敬

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、本案前の主張について

被告は当事者能力を有しないと主張するのでこの点について判断する。

被告は訴提起当時は国鉄労働組合札幌地方本部本局支部と称し、その後組織変更を経て現在に至ったことは当事者間に争いがないが、かかる場合訴訟要件としての当事者能力の有無は口頭弁論終結時を基準とし、この時に存在することを要しかつこれをもって足りるので口頭弁論終結時における被告つまり国鉄労働組合札幌地方本部中央支部について判断するに、≪証拠省略≫によると、国鉄労働組合は単一組合であって被告は内部的一下部組織にすぎないが、支部は国鉄労働組合規約によってその設置すべきことが定められるとともに原則として一定地域または府県を単位とする決議執行機関たることが右規約によって認められている(同規約第八条一項)。もっとも支部は他の下部組織同様全国大会で決定された方針を実践しなければならず、これに反する決定は無効とされているが(前同規約八条の二)、右に反しない範囲内では自治の余地があるものと認められ、しかも支部の財産の管理、経費の負担関係等会計全般についても国鉄労働組合規約上詳細に規定されている(同規約国鉄労働組合地方本部・支部会計事務取扱手続)。そして中央支部(被告)は現在構成員約一、五〇〇名を擁する団体であって執行委員長丸山洋一がその代表者である。

以上の事実を認めることができこれを覆えすに足りる的確な証拠はない。そうすると被告は個個の組合員の増減変動によって影響されない団体としての存在が認められ、その組織、運営、財産の管理等が規則によって確定されているとともに代表者の定めがあるから民事訴訟法四六条にいう代表者の定めのある社団ということができ、したがって同条により当事者能力を有するものと解する。

二、そこで本案について判断する。

被告は原告ら主張の東藤の不法行為の頃被告は本局分会であったが、右本局分会は国鉄労働組合の内部的一下部組織にすぎず、社団にも当らず独立して権利義務の主体たり得ない旨主張するので、この点について判断する。

本局分会が法人格を有しないことは当事者間に争いがないが、同分会がいわゆる権利能力なき社団といえるときは、社団法人の規定を適用して社団の目的の範囲内で権利能力を有すると解すべきであるから、本局分会がいわゆる権利能力なき社団といえるか否かについて案ずるに≪証拠省略≫を総合すると分会は国鉄労働組合の地方本部の下部組織であって、原則として業務機関別に設置され(国鉄労働組合規約八条二項)、本局分会は札幌鉄道管理局本局に勤務する国鉄労働組合の組合員をもって構成される団体であって規約を有し、右規約は分会内部の組織関係、分会の運営等について規律しているが、社団の定款ともいうべき右規約に分会独自の目的や業務内容を掲記せずかつ前記国鉄労働組合上も分会の決議執行機関性を明らかにしていない。そして分会は他の下部組織と同様全国大会で決定された方針を実践しなければならず、分会の運営はまず国鉄労働組合内の上位組織たる本部・地方本部の各規約によって規制されその範囲内で分会の規約によるとされている。しかも分会の財産関係については分会規約中「分会の経費は支部の交付金その他で賄う」旨の規定(同規約一五条)があるほか財産の管理等については何ら規定されておらず、しかも右規約一五条にいう「支部の交付金その他」の「その他」とは分会の構成員たる組合員から分会が分会用として臨時に徴収する金員をいうが、右徴収は国鉄労働組合本部の承認を得なければならないうえ現実には昭和二九年秋から同三三年までの約四年間をとってみても一度も徴収した事実がないことなどからすると右分会用として臨時徴収する金員は分会の経費の財源としてはきわめて例外的なものというべく、分会経費はもっぱらもしくはほとんど支部からの交付金によって賄われ、しかも現実に本局分会は格別の財産を所有せず、団体の独立性を支えるに足りる程度の経済的基礎を有していなかったことが認められ、かつ場合を福利厚生関係に限ってみても、本局分会が本件以外に構成組合員のために独自の福利厚生活動を行っていたことの証拠はない。

もっとも、≪証拠省略≫によれば、本局分会執行委員長河地慶次郎は債権者労働金庫との間の昭和三〇年六月一五日付抵当権設定金員借用証書および同様の昭和三三年五月二七日付抵当権付金銭消費貸借契約書に債務者として記名捺印しており、右いずれについても国鉄労働組合札幌地方本部札幌中央支部議長の下田常が連帯保証人となっていることが認められるが、≪証拠省略≫によれば、これは債権者たる労働金庫が当時かかる業務開始以来日が浅く、職員が業務の知識経験に之しかったため、原則として個人貸付を行わず団体を貸付の相手方とする形式をとっていたので、労働金庫と合意のうえ、右取扱例に沿う体裁を整えるため単に書面上分会が債務者となる形式をとったものであって真実分会が労働金庫から前記記載のような借り入れを行ったものではないことが認められ、これに反する証拠は措信しない。

以上の事実によれば本局分会はいわゆる権利能力なき社団とはいえないからその名において権利を有し義務を負うことを得ず、したがって仮に東藤が不法行為によって原告らに損害を被らしめたとしても、本局分会はその損害を賠償すべき義務を負う主体たり得ないから被告も本局分会からかかる義務を承継するいわれはない。

叙上のとおりであってこの点において原告らの本訴請求は理由がないからその余の点を判断するまでもなく原告らの本訴請求は失当として棄却を免れない。

よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻三雄 裁判官 野田殷稔 岸本洋子)

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